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Blog X-Tech5エンジニアがお送りするテックブログ
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なぜ安定性やパフォーマンスは「約束」なのか?『インフラ・クラウド大全』著者が語る

2025年6月24日 

こんにちは。取締役CTOの馬場です。

本エントリーでは「なぜシステムの安定性やパフォーマンスは「ユーザーとの約束」なのか?『バックエンドエンジニアのためのインフラ・クラウド大全』著者が語る」ということでばばが語ります。

『バックエンドエンジニアのためのインフラ・クラウド大全』は2025/6/24発売です!

システムが安定してエラーなくさくさく快適に動いていること、サービスが24時間365日いつでも使えること、、、現代において、これはもはや電気や水道のように「当たり前」として受け止められています。わたしが息子から仕事内容を問われて「お父さんのお仕事はゲームとかのサーバーがいつでも使えるようにお世話すること」と説明したとき、息子は「当たり前のそれがなぜ仕事なんだろうか?」というリアクションでした。

「当たり前」に動くことは、何を実現しているのか?

わたしたちの生活や経済活動は、もはやこれらのデジタルサービスという新たな社会インフラの上で成り立っていると言っても過言ではありません。ただまあ「新たな」というには浸透してから時間が経っているかもしれません。

ともあれサービスが「当たり前」に動くことへの期待は、ユーザーの利便性やウェブサービスの競争力という枠組みを超えて、社会がウェブサービス(または「インターネット」)に寄せる信頼そのものと言えます。この「当たり前」が、ユーザーが安心してサービスを利用できるという信頼の土台であり、インターネット/ウェブ業界の先人たち、そしてわたしたちが積み上げてきたブランドイメージの源泉です。ウェブサービス利用やインターネットでのやりとりを「するなんてとんでもない」時代から、「しても大丈夫」という時代になんとか漕ぎ着けたわけです。

技術の進化は目覚ましく、ウェブサービスの競争は激しく、新たなサービスが次々と生まれます。しかしどんなに素晴らしい機能も、それを届けるための土台を相応に備えていなければユーザーの手元には届きません。

今回はすべてのウェブサービスが備えるべき土台、わたしが「ユーザー価値を支える保証要素」と呼んでいるものついて、その要点と重要性をお話しします。これはわたしが執筆した『バックエンドエンジニアのためのインフラ・クラウド大全』でも一貫して伝えたかった、エンジニアとしての根底にある最も重要な思想です。

ユーザー価値を支える「6つの約束」

わたしは、ユーザーに価値を届け続けるために不可欠な要素を「ユーザー価値の保証要素」と呼んでいます。これはサービス提供者からユーザーへの、暗黙的でありながらしかし守るべき「6つの約束」と言い換えられます。

たとえば多くの人が利用する電子書籍サービスを想定します。ユーザーが安心して本を買って読書を楽しむ体験は、(程度の差はあれ)これらの約束の上に成り立っています。

  1. 信頼性(Reliability): 「買った本は、いつまでも自分のもの」という約束
    • 購入した本が本棚から消えたり、データが破損して読めなくなったりしないこと
  2. 可用性(Availability): 「買った本は、いつでも読める」という約束
    • 深夜にふと読み返したくなっても、長期休暇でも、ちょっとした移動時間でも、いつでも自分の本棚にアクセスして本を読めること
  3. キャパシティ(Capacity): 「話題になったときに、すぐ買える、すぐ読める」という約束
    • 人気の漫画や小説の新刊が発売されたときも、マスメディアやSNSで紹介されて話題になったときも、サイトがダウンせず、スムーズに購入し読書できること
  4. パフォーマンス(Performance): 「快適に選び快適に閲覧できる」という約束
    • 読みたい本をスムーズに探せて、読みたいページがすぐに開き、ストレスなくページをめくって読める、快適な読書体験が得られること
  5. セキュリティ(Security): 「読書の楽しみ、そして頭の中は、自分だけのもの」という約束
    • 誰がどんな本を読んでいるかという個人の趣味や思想が、決して漏洩しないこと。プライバシーが固く守られているという安心感
  6. 持続性(Sustainability): 「この本棚は、一生もの」という約束
    • このサービスが10年後、20年後も存続し、購入した大切な本をいつでも読み返せるという安心感

これらの「保証要素」が一つでも欠ければ、ユーザー体験は著しく損なわれ、ユーザーが得られる価値は大きく毀損します。そして綻びを放置することは、ユーザーとの約束を軽んじていると言えます。ユーザーからの評価や期待値が0になり、時にはマイナスになることもあります。

専門家として「社会の期待」に応えるということ

わたしが業界で働き始めた二十数年前はウェブエンジニアやウェブ業界という用語も確立しておらず、インターネットに関わるエンジニア、というよりはインターネットが全般的に少しアングラで怪しげな雰囲気のものでした(という社会的認知だったと記憶しています)。

それが現代のように社会に肯定的に認知され、エンジニアが「なりたい職業ランキング」に顔を出すようになったのは、ひとえに先人たち(とわたしたち)が「ユーザー価値の保証要素」に誠実に向き合って約束を果たしてきたからだと考えます。

「ユーザー価値の保証要素」すなわち信頼性 / 可用性 / キャパシティ / パフォーマンス / セキュリティ / 持続性をきちんと実現することで、ユーザーからの期待、そして社会からの期待に応えることができます。期待に応えることで初めて「このウェブサービスは使っても大丈夫なサービスだ」と認知してもらえるというわけです。

技術リーダーである、あなたへ

もしあなたが今、チームを率いる立場にあるなら、ぜひ一度チームに問いかけてみてください。

「わたしたちのチームは、ユーザーとのどんな約束に責任を持っているだろうか?」 「信頼性 / 可用性 / キャパシティ / パフォーマンス / セキュリティ / 持続性は期待に応えられているだろうか?」

日々の開発タスクや障害対応は、時にわたしたちを疲弊させ、視野を狭めてしまうことがあります。しかし、それら一つひとつの仕事が、これら「ユーザーとの約束」を守るという大きな目的に繋がっていると捉え直すことができれば、チームの視座は変わり、仕事への誇りが生まれるはずです。

これらの「約束」を、感覚や経験則だけに頼るのではなく、具体的な指標を使って計測し、チーム全員で・関係者全員で改善していく文化を育むこと。これはいい感じに事業貢献する成果を出せる技術リーダーの特性です。こうした思想と実践を体系化したものがSRE(Site Reliability Engineering/サイト信頼性エンジニアリング)というプラクティスですが、大事なのはワードよりも心意気ですよ。心意気。

まとめ

というわけで、今回はすべてのサービスの土台となる「ユーザー価値の保証要素」について紹介しました。

  • 優れた機能も、それを支える盤石な土台(ユーザー価値の保証要素)がなければユーザーには届かない
  • 信頼性 / 可用性 / キャパシティ / パフォーマンス / セキュリティ / 持続性は、ユーザーとの「約束」である
  • この「約束」をチームの共通言語とし、継続的に改善していく活動が、強いチームとエンジニアを作り、サービスを強くする

わたしたちエンジニアの仕事はほとんどがソフトウェアを相手にしたものですが、しかしその先にいるユーザーが良い体験を得て満足し(そして気持ちよくお金を払ってくれる)win-winの関係性を構築・持続する、大きな責任とやりがいのある仕事です。

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もしあなたのチームでもこの「ユーザーとの約束」をより確かなものにし、事業の成長を加速させるための「伴走者」が必要だと感じたなら、ぜひわたしたちX-Tech5にご相談ください。システムの信頼性向上という共通の目標に向かって、共に汗を流せる日を楽しみにしています。